2010年の2月ごろ、ブログ「つーりずむ」を考える・・・?!にて、『他人と暮らす若者たち』に関する書評を頂きました。どうもありがとうございました。
早くお礼とコメントを返さなければと思いつつ、ずいぶんと遅くなってしまったことをご容赦ください。石川さんは、観光という視点から居住型ゲストハウスにおける異文化交流に着目しているユニークな方で、現在は北海道大学の博士課程の在籍されているとのこと。以前は旅行会社で働かれていたと聞いています。
やはり、一番興味を曳かれたのはその視点の違いで、たとえば石川さんは次のように書かれています。
久保田氏が調査されたルームシェアではトラブルなどはあまりないのかもしれませんが、ゲストハウスはインターネットを通して様々な国籍・文化・価値観を持った人びとが絶えず出入りしているためか、トラブルも見られます。
例えば、いじめ・無視、人種差別、盗難などが挙げられます。
まるで、現在の「学校」や「社会」を見ているようです。
こういったトラブルを解決・改善するためには、ゲストハウス事業者はどこまで介入するのか、居住者間で何らかの合意形成が行われるのだろうか(どんなきっかけで?)、などと疑問は尽きません。
近年のシェアハウスの盛り上がりを支えているのは、石川さんが指摘されているような「居住型ゲストハウス」、別の言い方をすると、事業者介在型のシェアハウスです。これに対して、久保田が対象としているシェアハウスは、いわば自主運営型とでもいうもので、事業者を置かずに自分たちでシェアを切り盛りしているタイプのものです。
この事業者介在型のシェアハウスは、近年のシェアハウスの認知度や、快適でリッチなシェアのイメージを広げるのに非常に大きな役割を果たしています。久保田が調査を始めた2003年には、まだそれほどプレゼンスはなかったのですが、ここ5年では、無視できないどころか業界をリードしているとさえいえるでしょう。それゆえ、2009年の段階でシェアの本を出すならば、もう少し紙幅を割いて紹介し、その意味について論じるべきでした。たとえば、居住者間のトラブルに事業者がどうかかわるのか、居住者の合意と事業者の利害が対立した場合はどうするのか、両者の本質的な違いは何か、などなど。石川さんの疑問はもっともだと思います。
これに加えて、石川さんが投げかけるより重要な問題は、住むこと/旅すること、というより根本的な区別です。「ゲストハウス」というのは、本来、世界的には貧乏旅行者向けの安宿で、一つの部屋に複数の二段ベッドを備えたドミトリーを指すのが一般的です。これに対して、東京で「ゲストハウス」というと、一般的にはもう少し中期・長期的な入居も可能な宿泊業を指し、長期滞在の旅行社のみならず、日本人の入居者も多く存在し、実質的に事業者介在型のシェアハウスを指すことになっています。違いがあるとすれば、外国籍の旅行社を同じように受け入れるか、どの程度短期の旅行者まで受け入れるか、といった点でしょうか。実際、日本で初めてと思われるシェアハウスに関するアンケート調査(下記、『若者たちに住まいを!』収録)は、実際には、このゲストハウスを対象に行われています。
ここで、本来すぐに立ち去るはずの旅行者が住み着いて出来た「居住型ゲストハウス」と、定住者同士が短期的に出会う「シェアハウス」が、際どく交錯します。
この交錯は、そもそも定住するとはどういうことだったのか、翻って、そこから旅をするとはどういうことなのかという、非常に近代的で社会学的な問いを喚起してしまう。なぜ、二カ所に同時に住むことはできないのか。なぜ、4つの家を回りながら住むことはできないのか。なぜ毎晩同じ場所に寝る必要があるのか。住むことと、旅することの本質な違いはどこにあるのか。それは、いつから始まったのか。これらの問いが資本制における賃労働と私的所有に、国民国家における国民の管理と徴兵/徴税に、家父長制における女性の支配と次世代の再生産に、何らかの形で関連していることは明らかでしょう。
グローバル化によって、旅することや移動すること、翻って、定住することや領域内にとどまることの意味が問い返されている現在、久保田が発した日本のシェアの議論が、いきなり観光や旅行といった一層メタな平面でひっくり返された感があり、驚きとともに納得を感じました。以前、久保田は、シェアを家族と対比して、異文化交流に例えたことがありましたが、「異文化」をやや狭く考えていたのかもしれません。その意味では、ゲストハウスのみならず、日本でも行われている英会話学習目的の外国人とのシェア、異文化交流の目的を強く持った留学生のホスト、外国人と日本人が混ざり住む京都の長屋、海外でのホームステイや、B&Bの経営、ワーキング・ホリデイなど、居住と旅とを連続的に捉える視角も必要なのかもしれません。
まとまりのないリプライですが、いろいろと考えるヒントを頂いた気がします。
重ねて、どうもありがとうございました。